自動運転


  米国の巨大IT企業GARFAM(Google/Alphabet, Apple, Facebook/Meta, Amazon, Microsoft)と連携し、ビックデータ、クラウド、AI技術を駆使したサービスを提供しています。

 GARFAM中で最も自動運転に注力しているのはGoogleであり、傘下のWaymoは独自にロボットタクシーをサンフランシスコやフェニックスやロサンゼルス等の米国第都市内で既に商用運用しています。2026時点で、自動運転よりも生成AI開発を優先するApplleを除き、Amazonは「物流・輸送」、Microsoftは「開発環境(クラウドとAI)」、Metaは「自動運転専用次世代AIモデル」の視点から自動運転関連領域の研究開発に取組んでいます。

 日本の車メーカーは、将来の車産業の存亡の危機を招く事が無いように、GARFAMとの連携も視野に置いた競争優位戦略を立案することが必須です。その戦略に基づきイノベーションを実施し、適切なタイミングでグローバル市場で通用する自動運転車の創出を目指すべきと考えます。


自動運転のレベル


  米国自動車技術会(SAE)案自動運転のレベル国際標準になっていますフォールバックの担い手により、ヒューマンドライバーの場合は安全運転支援、ロボットドライバーの場合は自動運転システムと大別できます。

 自動運転システムでは、以下のレベルを規定しています。

レベル 3条件付き運転自動化自律型自動運転車のフォールバックを緊急時には共有情報を元にロボットドライバーからヒューマンドライバーにシフト

レベル 4限定走行環境下での高度自動運転フォールバックを常にロボットドライバーが担う

レベル 5:全ての走行環境下での完全自動運転車


実用化の現状


  日本と欧米の車メーカは、ガソリン車の既存市場で大きなシェアを有し、自社のヒューマンドライバー向けの安全運転支援システム(レベル2)の付加価値向上を競合他社と競い合っています。そのため、レベル3以上の自動運転システムに対しては、「急いては事を仕損じる」の観点から、社会の法制度や技術開発の状況を考慮しながら慎重に取組んでいます。

 一方、EVを旗印に車の市場に新規参入した米国Tesla社や中国BYD社は、最新のAI技術を導入した自動運転をキャッチフレーズに各々AutoPlotやDiPilotを搭載したEVの拡販を目指しています。しかしながら、AutoPlotもDiPilotも実際の自動運転のレベルはレベル2相当であり、ヒューマンドライバーの運転操作が前提になっています。


レベル 3実現のための壁


 レベル3は、「平常時はシステム(ロボットドライバー)が責任を持って運転し、システムが手に負えなくなった緊急時には人間(ヒューマンドライバー)に交代する」という仕組みです。

但し、「一般道」という条件がつくと、現在の法律や技術の壁によって、このレベル3の運用には非常に高いハードルが存在します。


1. レベル3の原則:「アイズオフ(視線を外す)」が可能


 レベル3では、ヒューマンドライバーとロボットドライバーの主従関係が逆転します。

  • 平常時(システム作動中): 運転の主体は完全に「ロボットドライバー」です。人間は前方を監視する必要すらなく、スマホを見たり、テレビを見たり、読書をしたりしても法的に問題ありません(これをアイズオフと呼びます)。

  • 緊急時(システムからの要請時): システムから「これ以上は無理なので運転を代わってください!」とアラーム(テイクオーバー要求)が鳴ったら、「ヒューマンドライバー」は速やかにハンドルを握って運転に戻らなければなりません(※居眠りや飲酒が禁止されているのはこのためです)。


2. なぜ「一般道でのレベル3」は、ほぼ存在しないのか?


  現在、ホンダやメルセデス・ベンツ、BMWなどが実用化しているレベル3は、すべて「高速道路の渋滞時(時速50km〜60km以下)」など、極めて限定されたエリア(ODD:運行設計領域)に限られています。

 一般道でレベル3(平常時はロボット、緊急時は人間)をやろうとすると、以下のような致命的な問題が発生するため、現時点では市販車向けに認可されていません。

① 「交代する時間」が足りない

 高速道路の渋滞であれば、システムがギブアップしてから人間がハンドルを握るまでに数秒〜十数秒の猶予があります。 しかし一般道では、「出会い頭の飛び出し」や「対向車の急な右折」など、コンマ数秒で判断が必要な緊急事態が起きます。「あ、無理なので代わってください」「えっ?」となった瞬間に衝突してしまうため、人間へのスムーズなバトンタッチが物理的に不可能です。

② 責任の所在がグレーになる

 レベル3の期間中は「事故が起きたらシステムの責任(自動車メーカーの責任)」になります。一般道で事故が起きた際、「システムが限界を迎えてアラームを鳴らすのが遅かったのか」「アラームは正しく鳴ったのに人間がサボってハンドルを握らなかったのか」の証明が非常に難しく、メーカー側がリスクを負いきれません。


3. テスラはレベル3なのか?


 テスラの「FSD(Full Self-Driving)」は一般道をスイスイ走ることができますが、あれはレベル3ではなく「レベル2(高度な運転支援)」です。

  • テスラ(レベル2):平常時も緊急時も、責任は100%「人間」にあります。システムがロボットのように動いていても、人間は1秒たりとも前方から目を離してはいけません。

  • 本来のレベル3:平常時の責任は「ロボット」にあります。

 

 テスラがレベル3以上の型式指定(政府からの認可)を取らないのは、「一般道で100%ロボットに責任を持たせるのはまだ危険すぎる」という判断と、「それなら最初は人間を監視役(レベル2)にしておき、一気に完全自動運転(レベル4以上)を目指した方が早い」という戦略をとっているためと想定できます。


自動運転実現に向けての取組み


レベル5


 ドライバーの基本運転操作である加速、減速、操舵を全てコンピューターが行い、あらゆる走行環境でドライバーがいなくても自動走行可能な完全自動運転車(レベル5)の開発競争が世界中のIT企業と車メーカ間で激化しています。

 トリガーとなったのは、Googleの自動運転技術開発の発表(2010年10月)であり、公道実験を通して様々な走行環境下の走行データ収集を行い、2026年時点でGoogle傘下のWaymoは独自にロボットタクシーをサンフランシスコやフェニックスやロサンゼルス等の米国第都市内で既に商用運用しています。BYDは、中国都市内一般道で315万台以上の都市部NOA(Navigate on Autopilot)対応車両による走行データ収集を実施中です。

 


レベル4


 日本でも、自動走行システムの研究開発を戦略的イノベーションプログラム(SIP)の一つとして産学官一体となって取組み、SAE Level 4の2025年実用化を目指してドライバーの安全運転支援(SAE Level 1)から段階的にアプローチします。

 2020年以降、日本の車メーカーは高速道路上で緊急時にはドライバーの運転操作が伴うことを前提にした自動走行(SAE Level 3)デモンストレーションを実施し、2021年の東京オリンピック開催時には特殊車両に限定した公道上の自動運転車を公開しました。

 2024年、警察庁が特定の条件下でロボットドライバーだけで運転を完全に自動化する「SAE Level 4」の自動運転車を地域の移動サービスで使用するための事業者向け許可制度を創設しました。事業者は、遠隔制御の実施と監視責任者を配置することにより、公道での地域限定型の無人自動運転サービスの提供が可能になります。2025年度には、福井県永平寺町や茨木県境町、愛媛県松山市で運行許可・実施済で、2030年までに100か所以上の地域に展開予定です。


自動運転関連ニュースへのオピニオン


 最近の自動運転関連ニュースに対する当社の意見や見解をオピニオンとして適時掲載公表します


技術開発のポイント


LOW Latency


車車間通信

 車車間通信(V2V: Vehicle to Vehicle)を利用した安全運転支援システムでは、GPS情報に基づく自車の位置情報を車両に搭載した車車間通信装置を介して周辺車両と相互に伝達し、自車と周辺車両の相対距離や速度を基にドライバーに対して衝突防止のための運転支援情報を提供します。ドライバーは、この運転支援情報を基にアクセルやブレーキやハンドルの操作を行います。

 

 2000年11月に経済産業省産業技術総合研究所機械技術研究所と自動車走行電子技術協会が実施した「Demo2000協調走行」は、世界初の自動運転車両群と車車間通信を組み合わせた協調走行システムの公開デモンストレーションであり、複数の車線にまたがって小さな車間距離で, 車線変更や分流, 合流を円滑に行わせ, 柔軟な走行の可能性が認められました。当方は当時OKIに在職し、「Demo2000協調走行」の車車間通信装置開発責任者として、アルゴリズム開発とハードウェアー開発を主導し、協調走行に必須となる無線データ伝送遅延100msec以内を保証する世界初の5.8GHz帯DSRC(Dedicated Short Range Communication)型車車間通信装置を開発しました。

 

 その後、車メーカ各社の想定するアプリケーションに沿った装置性能向上や小型・軽量化に取組み、2009年2月に実施された「ITS-SAFETY 2010公開デモンストレーション」では参加した国内外車メーカの全社に採用されました。その際の伝送遅延(Latency)は10msec以内でした。


QOS


 自動車が停止するまでの距離(停止距離)は、走行速度や路面状況(雪、雨など)に依存しますが、基本的には、

 停止距離=空走距離+制動距離

空走距離:危険を感じて、ブレーキをかけ、ブレーキが効き始めるまでに車が進む距離

制動距離:ブレーキが効き始めてから車が停止するまでに進む距離

となります。時速50m/hで走行する車の空走距離と制動距離の目安は、各々14mと18mであり、停止距離は32mとされています。

 

 車車間通信装置は、アプリケーション毎に想定した走行環境や走行速度や停止距離により規定されるシステムの要求QoS(Quality of Service: サービス品質)を満足することが必須となります。

  特に、空走距離(=走行速度×空走時間)に密接にリンクし、時速50m/hで空走距離14mの場合は、空走時間約1secに相当します。空走時間は、

① 情報提供時間:ドライバーが危険を感じてブレーキをかけるまでの時間

② 反応時間:ブレーキが効き始める時間

③ システム遅延時間:

に大別できます。


自動運転と安全運転支援の違い


 ①の情報提供時間中に、ドライバーには「認知」・「判断」・「操作」の3つの能力が必須となります。これらの能力は、走行環境やドライバーの個人能力に依存し、安全運転支援用車車間通信装置は、適正なレベルからの乖離が発生した際にドライバーに注意を促します。特に、認知力や判断力の劣化に対して有効です。

 

 一方、自動運転では、①と②を常に適正なレベルに常に維持することで車は安全運転走行します。①に関しては、車両に搭載したカメラやレーザーやレーダー等の車両周辺情報センサー情報を無線アクセス装置を介してクラウドネットワーク上のサーバーで収集し、AIで「認知」・「判断」・「操作」に係る情報処理を行い、その処理結果を無線アクセス装置を介して車両に伝達し、車両は提供された情報を基に必要な操作を行います。自動運転の実現には、AIだけではなく切れない無線アクセスシステムの開発が必須となります。また、②に関しては、従来、ガソリン車やディーゼル車のような内燃機関で走行する車は、メカの部分に性能が依存し反応時間の適正化が困難でしたが、これからのEV(Electric Vehicle)では容易になる可能性が有ります。


6G


 2020年3月25日に日本国内で5G移動体通信がサービスインし、現在は6G (Beyond 5G)の研究開発が世界中で加速しています。

 

 5Gでは、自動運転への適用を想定して1msec Latencyを目標にしていました。Latencyは、転送要求を出してから実際にデータが送られてくるまでに生じる通信の遅延時間であり、車車間通信装置で規定した③システム遅延時間に該当します。

 

 一方、5G のデータ伝送速度は、屋外環境で1Gbps、屋内環境で10Gbpsを目標にしています。5.8GHz帯車車間通信で規定した4Mbpsの250倍以上のデータ速度となり、①の情報提供時間が大幅に短縮します。

 

 では、5Gでは果たして自動運転は可能となったか。現時点では、5G の使用周波数帯の高速道路上や見通し不良の交差点での電波伝搬特性等、相変わらず一筋縄ではいかない技術課題が山済みです。

 

 6Gでは、限りなく短いLatencyとより広帯域な伝送速度を目標にします。無線技術だけではなくAI技術を利用した走行時の自社の周辺環境把握がポイントになります。

 

 できるところから、始めていくことが望ましいと考えています。


開発ターゲット


「いつでも」、「どこへでも」行け、どんなものにも「ぶつからず」安全に目的地に「すみやかに」到着する自動運転車


 当社は、2010年10月に「EV向け次世代ITS無線システムの研究開発」を発表し、ビジネス成功の秘訣であるマーケットイン・プロダクトアウトの観点から、ドライバーの普遍的なニーズである「いつでも」、「どこへでも」行け、どんなものにも「ぶつからず」、安全に目的地に「すみやかに」到着するEV車両の必要性を提案しました。残念ながら、15年以上過ぎた現時点でも部分的な実現レベルです。

 当社は、自動運転車を魅力的な車両として広く世界で普及させることも目標に、ドライバーの安全や快適に係る普遍的なニーズに加えてAI技術や5G/6Gの移動体通信技術を活用したLISCACC(Local Information Sharing and Cooperative typed Adaptive Cruise Control)の研究開発を実施中です。



自動運転関連ブログ


 当社のEPCNメンバーの一人であり、自動運転システムの先駆的研究者として世界的にも著名な津川定之博士の自動運転関連のブログを当社知識資産専用ウェブサイトに掲載中です。

 

 国内唯一の自動運転についての率直な意見交換の場です。数多くの有意義なコメントが寄せられています。

 

 自動運転システムは、社会的インパクトが大きく、その実用化には社会のコンセンサスが必須となります。コメントを積極的に発信し、自動運転車両の開発エンジニアだけではなく皆で安全・安心・快適・便利な自動運転車両を創出できれば幸いです。


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