自動運転


開発動向


 ドライバーの基本運転操作である加速、減速、操舵を全てコンピューターが行い、あらゆる走行環境でドライバーがいなくても自動走行可能な完全自動運転車(レベル5)の開発競争が世界中のIT企業と車メーカ間で激化しています。トリガーとなったのは、IT業界の世界No.1企業であるグーグル(Google)の自動運転技術開発の発表(2010年10月)であり、公道実験を通して様々な走行環境下の走行データ収集を行っています。車メーカだけではなくIT企業も自動運転車に必要不可欠な技術の研究開発に取組んでいます。

 

 日本でも、自動走行システムの研究開発を戦略的イノベーションプログラム(SIP)の一つとして産学官一体となって取組み、レベル4の2025年実用化を目指してドライバーの安全運転支援(レベル1)から段階的にアプローチします。昨年、日本の車メーカーは高速道路上で緊急時にはドライバーの運転操作が伴うことを前提にした自動走行(レベル3)デモンストレーションが実施し、2021年の東京オリンピック開催時には特殊車両に限定した公道上の自動運転車の開発されています。

 

 今や車メーカーがグーグル, マイクロソフト(Microsoft)等のIT企業と連携し、ビックデータ、クラウド、AI技術を駆使して自動運転車を開発するのは常識となりました。しかしながら、日本の車メーカーとダイムラー社やテスラ社のような欧米の車メーカー間の大きな違いは、当初からの開発ターゲットをレベル5に絞込み、その実用化タイミングを2020年、商用化を2025年に設定し、積極的に公道実験を繰り返していることです。

 

 2025年、日本の車産業の存亡の危機とならぬように、競争優位戦略に基づくイノベーションによる自動運転車創出が必須となります。


自動運転関連ニュースへのオピニオン


 最近の自動運転関連ニュースに対する当社の意見や見解をオピニオンとして適時掲載公表します


技術動向


歴史的背景


LOW Latency


 車車間通信を利用した安全運転支援システムでは、GPS情報に基づく自車の位置情報を車両に搭載した車車間通信装置を介して周辺車両と相互に伝達し、自車と周辺車両の相対距離や速度を基にドライバーに対して衝突防止のための運転支援情報を提供します。ドライバーは、この運転支援情報を基にアクセルやブレーキやハンドルの操作を行います。

 

 2000年11月に経済産業省産業技術総合研究所機械技術研究所と自動車走行電子技術協会が実施した「Demo2000協調走行」は、世界初の自動運転車両群と車車間通信を組み合わせた協調走行システムの公開デモンストレーションであり、複数の車線にまたがって小さな車間距離で, 車線変更や分流, 合流を円滑に行わせ, 柔軟な走行の可能性が認められました。当方は当時OKIに在職し、「Demo2000協調走行」の車車間通信装置開発責任者として、アルゴリズム開発とハードウェアー開発を主導し、協調走行に必須となる無線データ伝送遅延100msec以内を保証する世界初の5.8GHz帯DSRC(Dedicated Short Range Communication)型車車間通信装置を開発しました。

 

 その後、車メーカ各社の想定するアプリケーションに沿った装置性能向上や小型・軽量化に取組み、2009年2月に実施された「ITS-SAFETY 2010公開デモンストレーション」では参加した国内外車メーカの全社に採用されました。その際の伝送遅延は10msec以内でした。


QOS


 自動車が停止するまでの距離(停止距離)は、走行速度や路面状況(雪、雨など)に依存しますが、基本的には、

 停止距離=空走距離+制動距離

空走距離:危険を感じて、ブレーキをかけ、ブレーキが効き始めるまでに車が進む距離

制動距離:ブレーキが効き始めてから車が停止するまでに進む距離

となります。時速50m/hで走行する車の空走距離と制動距離の目安は、各々14mと18mであり、停止距離は32mとされています。

 

 車車間通信装置は、アプリケーション毎に想定した走行環境や走行速度や停止距離により規定されるシステムの要求QoS(Quality of Service: サービス品質)を満足することが必須となります。

 

 特に、空走距離(=走行速度×空走時間)に密接にリンクし、時速50m/hで空走距離14mの場合は、空走時間約1secに相当します。空走時間は、

① 情報提供時間:ドライバーが危険を感じてブレーキをかけるまでの時間

② 反応時間:ブレーキが効き始める時間

③ システム遅延時間:

に大別できます。


自動運転と安全運転支援の違い


 ①の情報提供時間中に、ドライバーには「認知」・「判断」・「操作」の3つの能力が必須となります。これらの能力は、走行環境やドライバーの個人能力に依存し、安全運転支援用車車間通信装置は、適正なレベルからの乖離が発生した際にドライバーに注意を促します。特に、認知力や判断力の劣化に対して有効です。

 

 一方、自動運転では、①と②を常に適正なレベルに常に維持することで車は安全運転走行します。①に関しては、車両に搭載したカメラやレーザーやレーダー等の車両周辺情報センサー情報を無線アクセス装置を介してクラウドネットワーク上のサーバーで収集し、AI(人工知能)で「認知」・「判断」・「操作」に拘る情報処理を行い、その処理結果を無線アクセス装置を介して車両に伝達し、車両は提供された情報を基に必要な操作を行います。自動運転の実現には、AIだけではなく切れない無線アクセスシステムの開発が必須となります。また、②に関しては、従来、ガソリン車やディーゼル車のような内燃機関で走行する車は、メカの部分に性能が依存し反応時間の適正化が困難でしたが、これからのEV(Electric Vehicle)では容易になる可能性が有ります。


6G


 2020年3月25日に日本国内で5G移動体通信がサービスインし、現在は6G (Beyond 5G)の研究開発が世界中で加速しています。

 

 5Gでは、自動運転への適用を想定して1msec Latencyを目標にしていました。Latencyは、転送要求を出してから実際にデータが送られてくるまでに生じる通信の遅延時間であり、車車間通信装置で規定した③システム遅延時間に該当します。

 

 一方、5G のデータ伝送速度は、屋外環境で1Gbps、屋内環境で10Gbpsを目標にしています。5.8GHz帯車車間通信で規定した4Mbpsの250倍以上のデータ速度となり、①の情報提供時間が大幅に短縮します。

 

 では、5Gでは果たして自動運転は可能となったか。現時点では、5G の使用周波数帯の高速道路上や見通し不良の交差点での電波伝搬特性等、相変わらず一筋縄ではいかない技術課題が山済みです。

 

 6Gでは、限りなく短いLatencyとより広帯域な伝送速度を目標にします。無線技術だけではなくAI技術を利用した走行時の自社の周辺環境把握がポイントになります。

 

 できるところから、始めていくことが望ましいと考えています。


開発ターゲット


「いつでも」、「どこへでも」行け、どんなものにも「ぶつからず」安全に目的地に「すみやかに」到着する自動運転車


 当社は、2010年10月に「EV向け次世代ITS無線システムの研究開発」を発表し、ビジネス成功の秘訣であるマーケットイン・プロダクトアウトの観点から、ドライバーの普遍的なニーズである「いつでも」、「どこへでも」行け、どんなものにも「ぶつからず」、安全に目的地に「すみやかに」到着するEV車両の必要性を提案しました。残念ながら、10年以上過ぎたの現時点でも部分的な実現レベルです。

 

 2016年12月13日、総務省は無線通信ネットワークを活用した新たな価値やビジネスの創出を目指して、「Connected Car 社会の実現に向けた研究会」をスタートしました。

 

 当社は、自動運転車を魅力的な車両として広く世界で普及させることも目標に、ドライバーの普遍的なニーズに加えてIoT時代にマッチした付加価値を考慮したLISCACC(Local Information Sharing and Cooperative typed Adaptive Cruise Control)の研究開発を実施中です。


自動運転関連ブログ


 当社のEPCNメンバーの一人であり、自動運転システムの先駆的研究者として世界的にも著名な津川定之博士の自動運転関連のブログを当社知識資産専用ウェブサイトに掲載中です。

 

 国内唯一の自動運転についての率直な意見交換の場です。数多くの有意義なコメントが寄せられています。

 

 自動運転システムは、社会的インパクトが大きく、その実用化には社会のコンセンサスが必須となります。コメントを積極的に発信し、自動運転車両の開発エンジニアだけではなく皆で安全・安心・快適・便利な自動運転車両を創出できれば幸いです。