オピニオン


記事の抜粋

東京2020オリンピック・パラリンピックでは、競技大会選手村でトヨタのeパレットが運行された。このeパレットが2021年8月26日に、歩行者と接触する事案が発生した。

視覚障害のある歩行者が交差点を渡ろうとしたところ、交差点を通過中のeパレットと接触。この時にeパレットは、交差点へ右折しながら進入しており、人を検知して停止した。その後、オペレーターが安全を確認して再び発進したが、交差点周辺の状況に基づいて、改めて手動による減速を開始している。

・この時に道路を横断してきた歩行者をセンサーが検知して自動ブレーキが作動し、オペレーターも緊急ブレーキを作動させたが、車両が完全に停止する前に歩行者と接触したという。交差点には誘導員もいた。

eパレットはエンジンを搭載しない純粋な電気自動車で、1回の充電により、150km程度を走行できるという。最高速度は時速19kmだ。ゆっくりした速度で走ることを前提に開発されている。

・自動運転システムは、カメラやライダーなどのセンサー、高精度の地図データなどを搭載する。周囲360度の交通環境が常に検知され、eパレット同士の連携、譲り合いなども人を介さずにおこなわれる。eパレットの運行は、予め運行経路が計画され、運行管理センターで制御されながら走る。スタッフが常に監視を行う。

・eパレットの自動運転技術は、SAEレベル4相当(編注:5段階ある自動運転化レベルのうち2番目に高い「特定条件下における完全自動運転」)とされる。

レベル4では、予め設定された使用条件下では、いかなる状況でもシステムが対処するとされている。そして使用条件の終了時(例えば使用条件が高速道路上の自動運行であれば、インターチェンジなどで本線からはずれた時)には、運転操作をドライバーへ安全に譲り渡す。

自動運転は、人為的なミスを防いで交通事故を皆無にできる技術とされるが、万一歩行者が車両の直前に飛び出したら、自動運転車でも避けられないことだ。

・車道において飛び出し事故が発生した場合、今はドライバーと歩行者の両方に過失があるとされるが、自動運転では話が変わる。車両側の責任の所在も問題になるが、それ以前に、事故を発生させる危険を抱えた自動運転車には、怖くて乗れないだろう。人が運転するから、交通事故の発生を当然の危険負担として乗っていられるが、事故の危険を抱えた自動運転車には乗りたくない。

・そうなると市街地まで自動運転を普及させるには、鉄道のようなガードにより、車道と歩道を完全分離する必要がある。そして横断歩道や乗り降りをする場所には、駅に設置されるホームドアのような開閉装置を設置して、電車に乗り降りしたり踏み切りを渡るような要領で利用する。そして人が自動運転車の独立軌道内に侵入して事故が発生した時は、これも鉄道と同様、入った人が悪いという共通認識を確立させないと自動運転の完全な普及は難しい。

・交通事故は、車両や歩行者などの移動する複数の物体が、接近したり進路を交えることによって発生する。従って交通事故を防ぐには、接近や進路の交わりを減らす対策が有効

 

 

<オピニオン>

・自動運転レベル4では、限定的走行環境下でフォールバック(緊急時の拠り所、故障発生時に機能を維持する代替システム)はロボットドライバーが担う。

・今回の事故は、選手競技大会選手村という限定的走行環境ではあるが歩行者の往来が想定される公道(一般道)で発生した。

ロボットドライバーが、車以外の歩行者を含むあらゆる状況で確実に物体認識できるのかは現時点で不明である。

フォールバックシステムを監視員に切り替えた理由が不明であり、レベル4対応の自動運転システムとしての安全性が担保されていない。

・車道と歩道の分離案は、既に中国の都市部の幹線道路では鉄製のガードを広範囲に敷設し実施されているが、自動運転レベル4が必要なのか疑問である。

・今後は、死亡事故発生確率の高い田舎での自動運転レベル4の有効性を優先的に評価すべきである。