自律システムと協調システム


 長い中断があったが,このブログを再開する.再開後の最初のテーマは自律システムと協調システムで,いずれもITSにおいて重要な観点である.

まずここでの自律システムと協調システムの定義をしておく.自律システムを1台の自動車(以下車)に装備されている機器だけで機能するシステムと定義し,協調システムを,1台の車の機器と路上機器(インフラストラクチャ,以下インフラ)と協調(路車協調),または他の車の機器と協調(車車協調)してはじめて機能するシステムと定義する.例をあげると,GPSに基づくカーナビゲーションシステム(以下カーナビ)は自律システムであり,VICSETCは協調システム(路車協調システム)である.カーナビを自律システムとするのは,GPSは,道路のレーンマーカ同様,カーナビのためだけに設置された専用システムではなく汎用システムであるからである. VICSETCは,車載機器とその車載機器に対応した専用の路上設備との協調によってのみ機能するために協調(路車協調)システムである.

 車は道路があるところはどこでも走ることができるため,運転支援・自動運転システムは路上設備がなくても車載機器だけで機能する自律システムが基本である.カーナビだけでなく,路上のレーンマーカをカメラで検出してレーン逸脱警告やレーン追従走行支援を行うシステム,先行車に追従するACC,衝突回避自動ブレーキなども自車に搭載した機器だけで機能する自律システムである.

自律システムの機能には自ずと制約がある.車載カメラの視野はせいぜい車の前方100mまでで,たとえば1km先の渋滞を知るためには路車協調システムに頼らざるをえない.協調システムによって車の機能は向上し,あるいは新たな機能が生じる.渋滞情報をほぼリアルタイムで車内に表示することが可能なVICSITSスポットのサービスは車載の機器だけでは実現が不可能である.

 

しかしながら協調システムでは,自車以外のインフラや他車にも設備があることがシステムが機能するための前提となる.ここに車が先かインフラや他車が先か,という「鶏と卵」問題が発生する.車に機器がなければインフラに設備することは無意味,無駄だし,インフラに設備がなければドライバは自分の車に機器を搭載することはない.「卵」か「鶏」を準備しないと協調システムは始まらない.車にせよインフラにせよ機器の導入,普及が,協調システムが成立するための前提となる.VICSが開始されたのは自律システムであるカーナビがあったからであり,ETCが普及したのはインフラの設備が整備されたからである.鶏か卵が用意されたのである.

路車協調による自動運転システムの路上設備は,ETCVICS,路側の情報板とは異なって,初期の工事や運用時の保守管理が膨大になるためにすべての道路に設備するわけにはいかない.しかし,自動運転技術として初期に用いられた誘導ケーブルはラスト1マイルの自動運転のような狭い区域を走行する低速自動運転車両では用いることは可能で,実際に観光施設(写真参照)や現在国内各地で行われている実証実験で用いられている.また米日で用いられた磁気マーカは走行経路が固定されている路線バスなどではフィージブルなインフラとなろう.

 VICSETCにみるように路車協調システムは協調システムとして成立し,広く普及するに至っている.しかしながらもう一つの協調システムである車車協調システムは,車車間通信に基づくが,その導入や展開は路車協調システムとは異なって容易ではない.VICSETCとは異なって鶏も卵も存在しないうえに,システムが有効に機能するためには車車間通信装置の高い普及率が必要とされるからである.路車協調システムであるETCは路上装置が広く整備されたために車載機器の普及率が低い状態でもシステムは機能した.2台の車の間で車車間通信が行われる確率は車車間通信装置の普及率の2乗となる.たとえば車車間通信装置の搭載率が10%のとき,すなわちわが国の車800万台(現在わが国には8000万台以上の車がある)に車車間通信装置が搭載されたとき,2台の車が遭遇して車車間通信が行われる確率は,自動車交通流全体からみれば1%100回に1回である.車車間通信が安全に寄与するとはいえ,搭載率10%ではその効果は極めて限られる.地域を限定して搭載率を高めて通信が行われる確率を高くし,応用システムの実証を行う方策があってもいいのではないか.

 このブログですでに述べたが,筆者は,車車間通信装置は高速道路を走行する長距離トラックや高速バスに搭載してCACCに使うことを提案したい.長距離トラックのCACCが,運転負荷低減や省エネルギーに効果があることはエネルギーITSのプロジェクトで示されている.長距離トラックの自動隊列走行も実現されつつあるが,より多くのトラックを対象に車車間通信装置を搭載してCACCで走行することは,マイカーとは異なって当事者間で決めることができるのではないか.高速道路を連なって走行する高速バスや観光バスにも導入可能であろう.

欧州のプロジェクトSARTREでは,省エネルギーを目的として手動運転のトラックを自動運転の乗用車が追従するシステムが提案された.日本版SARTREとして,車車間通信装置を搭載した乗用車が,上述したCACCで走行しているトラックやバスにCACCで追従するシステムが可能かもしれない.CACCで追従すると,ACCに比べて車間距離が小さいだけ燃費をより改善することができる.もっともSARTREではトラックのはねる泥が後続の乗用車のラジエタを汚損するというトラブルがあったが,日本版SARTREにはトラックに追従する乗用車の前方視界が遮られるという欠点がある.

 

 


古宇利島(沖縄)の観光施設で運用されている自動運転車(レベル4


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