自動運転の導入時期



  今から40年近く前,ある雑誌のインタビューで「人工知能の父」と呼ばれるマーヴィン・ミンスキーが「20年後にはマシン・ビジョンの問題がかなり解決され安全に走行する自律型の輸送手段(autonomous vehicle)が実現されるだろう.」と答えている[1]2019年にはWaymoの自動運転車が自動運転平均距離4.8kmを達成しているが,ミンスキーのいう「安全に走行するautonomous vehicle」はまだ実現されているとはいえないだろう.技術の将来予測はほんとうに難しい.

運転支援・自動運転についての最後のテーマとして自動運転車(レベル345)の導入時期について私見を述べたい.ここで導入時期とは実験や試験(注)ではなく,実用化されてまたは商品化されて社会で用いられ始める時期である.導入は法律や制度,経済性などに大きく影響されるが,ここでは主として技術的な面だけから考える.人工知能のシンギュラリティとして2045年が取り上げられており,自動運転車も人工知能に多くを依存しているが,ここではシンギュラリティの影響は考えていない.自動運転車は人工知能(深層学習)だけでなく,センサデバイス(ハードウェア)や車両制御アルゴリズム(制御理論,これはAIとは別物である)が重要な役割を果たすからである.

わが国のプロジェクトではオーナーカー,サービスカーという分類が行われているが,ここでは乗用車,トラック,バス,小型低速車両,作業車に分類し,今回は作業車以外について紹介し,作業車は次回に紹介する.なお,旅客機や新幹線のように管制センターから各車両をモニタして遠隔操縦する自動運転の方法も提案されているが,ここでは割愛する.

まず乗用車,マイカーであるが,2021年にレベル3の乗用車が,限定的ではあるが,商品化された.レベル4の乗用車は2040年代以降,レベル5の乗用車は2070年代以降と思う.走行場所や走行環境を厳しく限定すればレベル4も遠くない将来に導入可能かもしれないが,環境が厳しく限定されれば商品としては成立しない.レベル5の乗用車は,現在我々が運転しているあらゆる環境道路環境,交通環境,気象環境,時間帯などでの自動走行が要求されることを考えると遠い将来,2070年以降とする.もしかしたら永久に実現できないかもしれない.以前にも述べたが乗用車はどこにでも走っていくため,自律型の自動運転にならざるを得ない.

タクシーの自動運転もマイカーに準じる.タクシーはドライバがいるかいないかで分かれる.レベル34の自動運転タクシーではドライバは存在せざるを得ない.ドライバがいないレベル4の自動運転タクシーに乗って途中で動かなくなることは許されない.ドライバのいないタクシーはレベル5である.となると無人タクシーはレベル5のマイカー同様なかなか実現しないと思う.

つぎにトラック.まず高速道路を長距離走行する大型トラックについては,先頭車だけ有人の高速道路を走行するプラトゥーンは2020年代には実現するのではないか.全車無人の高速道路上のプラトゥーン(レベル4)は2040年代以降とみる.その効果は,安全は当然として,労働環境の改善や省エネルギーがある.トラックも乗用車と同じく自律型が基本である.もし高速道路全線にわたって磁気マーカが敷設されれば,レーンマーカをカメラで検出する自律型よりも信頼性が上がり,路車協調型の自動運転トラックが可能となるが,実現は難しそう.主として市街路を走る小型トラック(デリバリトラック)の自動化は荷物を積んだり降ろしたりがあるため,無人化は難しいと思う.代わってドローンなどが使われるのではないか.

路線バスの自動化は安全だけでなくドライバの人件費抑制の面からもニーズがある.自動化だけでなくドライバの負荷を軽減するための運転支援も必要である.すでに1980年代に停留所付近だけで自動運転を行い,プラットフォームにバスを精密に停止させて車椅子や乳母車の乗降を容易にするシステム(プレシジョンドッキング)がスウェーデンやドイツで行われていた.また2000ゼロ年代には淡路島のテーマパークや2005年の愛知万博で専用道上で無人バスが運行されたが,現在はいずれも廃止されている.これらの例はいずれもレベル4の路車協調型自動運転で技術的には完成の域にある.したがって,路車協調型の路線バスは2030年代以降には実現するかもしれない.自律型の路線バスも現在わが国各地で実証実験が行われているが,実現は2040年代以降ではないか.速度と走行経路が限定されているが,雨の夜間に自律型の路線バスを走らせるのはなかなか難しいと思う.雨だから運行しないというのでは公共交通機関として使い物にならない.

小型低速自動運転車両は,ラスト1マイルの移動手段や限定された地域での移動手段として考えられている.以前に紹介したように路車協調型の車両(レベル4)が観光施設で稼働している.また各地で実証実験が行われているが,これらはいずれも誘導ケーブルを用いた路車協調型である.自律型の車両は,2010年代に欧州のいくつかの都市内で実証実験が行われたが,自律型のバス同様,実用化は2040年代以降ではないか.

上述した車種の自動運転導入時期をまとめる.近未来の導入は,長距離トラックの隊列走行と小型低速車両だろう.次いで路線バスの自動運転が出現するかもしれない.レベル5の乗用車は遠い将来の話と思う.ここで改めて自動運転は目的ではなく自動車交通の安全と効率のための手段であることを強調しておく.

 

() 実験や試験レベルでは,1995年にミュンヘンからオーデンセまで自動運転で走行したミュンヘン国防大学のVaMP1997年のサンディエゴのデモに参加した多くの自動運転車はレベル4である.また,結果的にはWaymoなどの現在の自動運転車の多くにつながった2005年のGrand Challenge2007年のUrban Challengeの完走車もレベル4である.

 

[1] 日経バイト,198410月号,p.68.ここに記された訳文を本文中にそのまま引用した.

 



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