自動運転の効果:効率


自動運転の効果について安全の次は効率について述べよう.自動車交通の効率とは,渋滞の解消,エネルギー消費と環境負荷の削減のことである.安全に対する効果とは異なって,自動運転の省エネルギー効果は日米独における実車実験で示されている.

 自動運転によって精密に車両を制御することが可能になると,渋滞が緩和,解消され,それに伴って自動車交通の省エネルギー化やCO2排出削減が達成される.図1に車両の制御と省エネルギー,CO2排出削減の因果関係を示す.


図1 車両制御と渋滞解消,省エネルギー,CO2排出削減の関係
図1 車両制御と渋滞解消,省エネルギー,CO2排出削減の関係

 

 車両の横方向の制御とは操舵制御を指すが,精密に操舵制御を行うと狭いレーンでの走行が可能になる.現在の高速道路では,たとえば幅が3.6mのレーンを車幅1.6mの乗用車が走行している.レーンの幅を狭めれば1本の道路のレーン数を増すことができ,道路容量(単位時間に通過できる自動車の台数)を増加させることが可能になり,渋滞が緩和,解消され,その結果,自動車交通の省エネルギー化,CO2排出削減となる.

車両の縦方向の制御とは速度,車間距離の制御を指すが,精密に速度や先行車までの車間距離を制御すると,車間距離を短縮して走行するプラトゥーン走行が可能となる.小さな車間距離で走行することの効果は2種ある.

一つは道路容量の増加で,カリフォルニアPATHCalifornia Partners for Advanced Transportation Technology1986年に開始された米国カリフォルニア州のITSプロジェクト)が行ったシミュレーション結果は,プラトゥーン走行によって道路容量が3倍程度までに増加することを示している.たとえば,走行速度が25m/sで,10台の車両が車間距離6mで走行すると,道路容量は6200/hとなり,車両が単独で走行する時の2000/hの約3倍になる.もっともプラトゥーンを解消したあと,多数の車両が渋滞を発生する可能性が生じるが.

またカリフォルニアPATHは,乗用車を用いて公道上でACCAdaptive Cruise Control,先行車までの車間距離と相対速度から自車の速度を制御し,先行車との車間距離を一定に保持して走行するシステム)とCACCCooperative Adaptive Cruise Control,協調型ACC,車車間通信で受信した先行車の加減速度を用いてより精密に自車の速度を制御するACC)の実験を行った.その結果によれば,平均車間設定時間が,CACCでは男性ドライバが0.64秒,女性ドライバが0.78秒であるのに対して,ACCでは男性ドライバが1.43秒,女性ドライバが1.68秒であり,CACCではACCの半分以下になっている.さらに彼らのシミュレーション結果は,CACCの利用率が100%になると,道路容量がほぼ2倍になることを示している.我が国の検討では,CACCによって高速道路のサグ部(道路の勾配が下りから登りに変化して車両の速度が低下し,渋滞が発生しやすい部分)に起因する渋滞の発生が抑制されるとしている.なおCACCとプラトゥーンの相違は車間距離の大小にあり,車間距離が小さい場合をプラトゥーンと呼んでいる.

もう一つの効果はプラトゥーンでの特に高速走行時の空気抵抗の低下である.空気抵抗は,速度の2乗に比例するため,高速走行時には転がり抵抗よりも空気抵抗が大きくなる.カリフォルニアPATHが行った風洞実験結果は, 空気抵抗係数Cd値(Coefficient of Drag)が,プラトゥーン走行時には後続車だけでなく,車間距離が車長よりも小さいときには先頭車両のCd値も小さくなることを示している.プラトゥーン内の各車両のCd値が小さくなることは,高速走行時にプラトゥーン走行を行うと,燃費が改善されることを示している.

プラトゥーン走行時の空気抵抗低下による省エネルギー効果は実車による走行実験で実証されている.2008年から5年間,我が国の経済産業省とNEDOが行ったプロジェクトであるエネルギーITS推進事業では3台の自動運転トラックを開発したが,テストコース上で測定した3台のトラックのプラトゥーン走行時の燃費の測定結果を図2に示す.後続トラックだけでなく,車間距離が小さいときには先頭トラックの燃費も改善されている.この結果は上述した風洞実験結果と同様の傾向を示している.またカリフォルニアPATH2010年と2011年に米国ネバダ州の州道で3台のトラックのプラトゥーン走行の実験を行い,燃費を測定している.3台のトラックを車間距離6 m,速度85 km/hで走行させたときの燃費改善効果は,先頭車4.54%,中間車11.91%,後尾車18.4%で,エネルギーITSと同様の結果を得ている.さらにドイツでのトラックによる実車実験でも2%ないし11%の省エネルギー効果が得られている.


図2 自動運転トラックのプラトゥーン走行の省エネルギー効果(走行速度80km/h)
図2 自動運転トラックのプラトゥーン走行の省エネルギー効果(走行速度80km/h)

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・プラトゥーン走行など,協調型システムの問題点については「代行」のテーマの回答でCACCを取り上げて述べたが,ここでも簡単に述べる(プラトゥーンとCACCの差は車間距離にあるだけである).トラックのプラトゥーン走行は,人件費や燃費の観点で大きな利点がある.またプラトゥーン走行では車車間通信が必須であるが,トラックでは,車車間通信装置の装備は経営者や業界の判断で行うことができ,乗用車と異なって導入が容易である.さらにプラトゥーン専用レーンを設ければ他の交通を排除でき,安全の確保が可能となる.将来は我が国の人口が減少し,高速道路の交通量も減少することが予想されるため,現行の東名,新東名のレーンの内1レーンをプラトゥーンの専用レーンにすることは不可能ではないと思う.

・乗用車のプラトゥーン走行は遠い将来のことであるが,プラトゥーンを解消した後一般道に降りたときに大渋滞になるのではないか,という懸念はある.トラックのプラトゥーン走行もプラトゥーンを形成する場所や解消する場所(トラックヤードか)や無人トラックのドライバの乗降場所は課題である.

・プラトゥーン走行時の追突に関しては,小さな車間距離で走行することは前後の車両間の相対速度がほとんどゼロであることを示しているため,たとえ追突しても相対速度は小さいために大きな事故にはならないとされている.

 ・自動運転(レベル45)になると,現在は車を運転できない人も車で出かけることが可能となり経済の活性化も期待できるが,一方では多くの人が車で出かけると大渋滞が発生するという懸念もある.

2018年1月25日