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安全運転支援のあり方


筆者は映画には興味がないが,昔テレビで見た映画「恐怖の報酬」(1953年制作のフランス映画)は強く記憶に残っている.油田で発生した大火災の消火のために,わずかなショックでも爆発するニトログリセンをトラックに満載して500kmの悪路の山道を越えて運ぶことを引き受けたドライバが,無事運び終えて多額の報奨金を得てのルンルンの帰路,山道で脱輪し谷底に転落して死ぬというストーリーである.筆者が興味をもつのは,積み荷がニトログリセリンという危険な環境下では慎重に運転し,その危険がなくなると,そもそも危険な山道で慎重さを欠く運転をして事故を起こした,という点である.

 1990年代末にNHK教育テレビで自動車の安全に関する秀逸なドキュメンタリ「CRASH」が放映された.ダイアナ妃事故を冒頭に紹介したこのドキュメンタリのなかでイギリスの自動車教習所指導員が,「前バンパに燃料タンクを置き,ハンドルにエアーバッグの代わりにナイフを置けばドライバは慎重に運転するだろう」と皮肉なコメントをしていた.「恐怖の報酬」と同じ発想である.このような安全運転支援は,だれも受容しないだろうし,そもそも許されるべくもない.

近年,ドライバに親切な新しい機能の安全運転支援システムの商品化が急速に行われているが,このような新しいシステムが,今まで経験しなかった新しい種類の問題を起こしている. 2016年5月には米国初の自動運転による死亡事故が発生し,2013年11月と2017年4月には我が国で自動車販売店での自動ブレーキ装備車試乗時の事故が発生している.米国の事故はシステムの名称「autopilot」がドライバのシステムに対する過信を招いたのが原因であろう.また我が国の事故は試乗したドライバや販売店説明員のシステムに対する誤解または理解不十分が原因であろう.我が国のプロジェクトASV(先進安全自動車)は,支援にあたっては過信と不信を生じさせないというガイドラインを設けている.不信を生じさせるようなシステムは商品にならないであろうが,過信を生じさせるシステムは重大な問題を孕んでいる.実際,テスラの事故以後,各国は「自動」という表現を使わないように勧告している.

 カナダの交通心理学者ジェラルド・J・S・ワイルドは,彼の著書「Target Risk 2」(我が国では「交通事故はなぜなくならないか リスク行動の心理学」[1]のタイトルで翻訳書が出版されている)でリスク・ホメオスタシス理論という理論を主張している.道路側や車載の安全設備によってドライバが危険のレベルが下がったと認識すると,より危険な運転を行う可能性が生じるが,これはリスク補償行動と呼ばれている.このリスク補償行動が生じるメカニズムを説明するのがリスク・ホメオスタシス理論である[2].この理論には賛否両論あるが,ワイルドは,安全設備は交通安全の向上に寄与しないというのではなく,教育によってドライバのリスク水準を下げることが交通安全には必要であると主張している.

運転支援システムが高度化すると,それに対応した,過信や誤解を防ぐための新たな自動車運転教習やドライバのリスク水準を下げる教育が必要になると筆者は考えている.また,運転支援システムに対する過信とリスク・ホメオスタシスの関係も考えてみたい.

 

参考文献

[1] ジェラルド・J・ワイルド,芳賀 繁訳:交通事故はなぜなくならないか,新曜社, 2007.

 

[2] 芳賀 繁:安全技術では事故を減らせない-リスク補償行動とホメオスタシス理論-, 信学技報, vol. 109, no. 151, SSS2009-8, pp. 9-11, 2009年7月


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